データが語る 令和高齢者の実像

「靴」を変えれば膝痛が改善する? 6割が効果を実感 豪州の研究グループが発表

安定した靴は膝の痛みを軽減してくれる場合も(C)VacharapongW/iStock
安定した靴は膝の痛みを軽減してくれる場合も(C)VacharapongW/iStock

 2008年に出された厚労省の研究班報告書(介護予防の推進に向けた運動器疾患対策について)に、変形性膝関節症の自覚症状がある人は約1000万人、潜在的な患者は約3000万人と書かれています。膝の軟骨が変形したりすり減ったりして起こる、痛みや腫れなどが、主な症状です。

 病院に行くと、ヒアルロン酸(保険適用)の注射を打ってくれます。ただし痛みを和らげ、膝を曲げやすくする治療で、完治はあまり期待できません。

 しかも効果が短いため、毎月1、2回打ち続けることになりますし、それが長期にわたると次第に効き目が落ちてきます。

 錠剤のグルコサミンやコンドロイチンを愛用している人も大勢います。こちらはヒアルロン酸より効果が弱いとされており、保険適用になっていません。特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品になっている商品は数多くあります。定期的に通院して注射を打ってもらうよりも、お手軽ではあります。

 しかし手軽という点では、なんといっても「靴」が一番でしょう。変形性膝関節症は靴選びである程度予防でき、痛みを緩和する効果もあることが、経験的によく知られています。とくに今世紀に入ってから、科学のメスが入って、論文数が急増しています。ただし靴の形、サイズ、底やインソール(中敷き)の厚みや硬さ、履き方や歩き方など、パラメーターが多いため、複雑すぎてなかなか決定打が出ない状況です。

 それでも参考になりそうな論文もいくつかあります。たとえば2021年にオーストラリアの研究グループが発表したものは、フラットで柔らかい靴と、安定したサポート力のある靴で、どちらが膝痛に効果があるかを調べたものです。平均年齢65歳の164人の男女を2組に分け、それぞれの靴を半年間履いて生活してもらって、膝の痛みがどうなったかを判定するというものでした。

 その結果、安定した靴を履いていた人のほうが、膝の痛みが軽減する割合が高かったといいます(約60%)。さらに安定した靴を履いていた人の11%で、機能的にも改善が見られたそうです。ほかにも膝以外の体の痛みの改善にも効果があったとしています。

 もちろん個人差はあると思いますが、自分に合った良い靴を選ぶことができれば、膝痛だけでなく、腰痛や肩凝りなども予防・改善ができる可能性が示されています。膝の健康は靴選びから、ということが言えそうです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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