正解のリハビリ、最善の介護

重症の脳出血で高次脳機能障害や失語症が残っても復職できるのか

ねりま健育会病院院長の酒向正春氏(本人提供)

 以前、当院でリハビリ治療に取り組んだAさん(男性・当時39歳)のお話の続きです。

 Aさんは重症の「脳出血」によって右半身が完全麻痺となり、体の動作は全介助の状態でした。そこから当院で6カ月のリハビリ治療に取り組んだ結果、右半身には麻痺が残ったものの、装具を装着した杖歩行で歩けるようになり、信号も渡れるレベルまで回復。ADL(日常生活動作)の指標も自分でできるまでに向上し、自宅退院が可能になりました。ただ、重度の感覚障害や重度の失語症が残っていて、言語機能面は単語と短文の理解はほぼ可能、発語と書字も単語レベルで一部可能という状態でした。

 今度はいよいよ復職に向けた取り組みのスタートです。39歳のAさんは、就労年齢の上限に当たる65歳まで残り25年間もあります。この期間に復職できるのかできないのかで、人生がまったく変わってしまいます。人間は誰かを助けて喜んでもらうことに幸せを感じる生き物で、この“人を助ける活動”こそが仕事だからです。

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酒向正春

酒向正春

愛媛大学医学部卒。日本リハビリテーション医学会・脳神経外科学会・脳卒中学会・認知症学会専門医。1987年に脳卒中治療を専門とする脳神経外科医になる。97~2000年に北欧で脳卒中病態生理学を研究。初台リハビリテーション病院脳卒中診療科長を務めた04年に脳科学リハビリ医へ転向。12年に副院長・回復期リハビリセンター長として世田谷記念病院を新設。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」(第200回)で特集され、「攻めのリハビリ」が注目される。17年から大泉学園複合施設責任者・ねりま健育会病院院長を務める。著書に「患者の心がけ」(光文社新書)などがある。

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