正解のリハビリ、最善の介護

脳出血が重症で半身が完全麻痺でも本当に回復できるのか?

ねりま健育会病院院長の酒向正春氏(C)日刊ゲンダイ

 かつて、当院でリハビリ治療に取り組んだAさん(男性・当時39歳)のお話です。彼は身長175センチ、体重98キロの肥満体形で、高血圧もずっと放置していました。仕事はシステムエンジニア(SE)で、職場までは電車通勤。独身で両親と同居しており、趣味はゲームとのことでした。

 ある日突然、右半身がまったく動かなくなって言葉も出なくなり、意識がもうろうとして救急搬送されました。診断は「脳出血」でした。搬送先の救急病院でもしばらく脳出血が続き、出血量は約78ミリリットルに及んで重症となってしまいました。

 入院2日目に出血が止まり、血腫を吸引する手術を受けて、意識は徐々に回復してきました。言葉は発声できないものの、少しだけ周囲の状況を把握できるようになり、口からの食事もできるようになりました。さらに、排尿と排便の感覚もわかるようになってきました。身体の動作は全介助の状態でしたが、介護者がAさんの体を動かす際、麻痺がない左半身で協力動作ができるまでになりました。

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酒向正春

酒向正春

愛媛大学医学部卒。日本リハビリテーション医学会・脳神経外科学会・脳卒中学会・認知症学会専門医。1987年に脳卒中治療を専門とする脳神経外科医になる。97~2000年に北欧で脳卒中病態生理学を研究。初台リハビリテーション病院脳卒中診療科長を務めた04年に脳科学リハビリ医へ転向。12年に副院長・回復期リハビリセンター長として世田谷記念病院を新設。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」(第200回)で特集され、「攻めのリハビリ」が注目される。17年から大泉学園複合施設責任者・ねりま健育会病院院長を務める。著書に「患者の心がけ」(光文社新書)などがある。

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