血液型と病気

いまも残る天然痘のリスク 日本は種痘を備蓄しているが…

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写真はイメージ(提供写真)

 天然痘は種痘によって制圧され、1980年にWHO(世界保健機関)が根絶宣言をしました。しかし病気としての天然痘は消滅しましたが、天然痘ウイルスは、いまなお存在し続けています。

 根絶宣言のあとも、各国が研究用にウイルスを保有していたため、WHOが中心になって廃棄が進められました。しかしアメリカと旧ソ連(ロシア)は従わず、現在も保管し続けています。公式には、アメリカとロシアの各1カ所の研究機関が保管していることになっていますが、1991年のソ連崩壊の混乱で、ウイルスが研究者とともに第三国に流出したといわれています。

 2001年の9.11テロの翌年、アメリカのブッシュ大統領(当時)が、国民の希望者全員に種痘を実施することを決定しました。天然痘によるバイオテロを警戒したためです。

 その動きを受けて、日本のいくつかの公的研究機関が、国民に種痘の効果がどれだけ残っているかを調査しました。日本では1976年まで種痘が義務化されており、それ以前に生まれた人は、肩に瘢痕(はんこん)が残っているはずです。2005年の時点で、種痘接種者の80%以上がまだ十分な抗体を持っていることが示されました。予防効果には、血液型はほとんど影響しないことが分かっていますから、A型やAB型の人も安心してよさそうです。

 ただしいまは、その時からさらに20年近くが経過しています。予防効果はもっと弱まっているはずです。また現在46歳以下の大半は、種痘を受けたことがないため、まったく無防備の状態です。

 天然痘ウイルスは感染力が強く、接触感染だけでなく空気感染もします。もしバイオテロが起きたら、大惨事が予想されます。天然痘患者の飛沫を吸い込んだり、膿に触れたりすると、罹患率は80%以上、死亡率は40%以上に達するとされているのです。

 厚生労働省は、テロに対応するために種痘を備蓄しています(量は非公表)。もしものときの接種体制については、2004年に「天然痘対応指針」として公表されています。医療従事者と公務員を優先すること、2人の医師を中心として1班を構成し、1班当たり、1時間につき40人程度に接種すること……などが書かれています。しかし、これで国民全員に間に合うかどうかはかなり不安ですし、そもそも量が足りるのか分かりません。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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