血液型と病気

8割の人が唾液や精液、毛髪などから血液型が分かる理由

写真はイメージ
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 小説やテレビドラマなどで、唾液や精液、毛髪などから犯人の血液型がわかる、というシーンを見かけます。しかしそれは、唾液や精液に血液が混ざっているからではありません(歯槽膿漏なら、混ざっているかもしれませんが……)。

 実は血液型を決める糖鎖であるA・B・H抗原(O抗原)は、赤血球だけでなく、全身の細胞に広く分布しているのです。皮膚、口の中や消化器の粘膜細胞、気管の上皮細胞、毛根細胞、精巣や子宮の内側、さらには血管の内壁までも、血液型の糖鎖で覆われているのです。

 それらは「組織血液型抗原」と呼ばれており、赤血球の糖鎖とは区別されています。といっても、血液型がA型なら組織血液型抗原もA型、B型ならB型、というように、両者は分子構造が完全に一致しています。組織血液型抗原が細胞表面から剥がれ落ちて、唾液や精液に混じっているため、犯人の血液型がわかるのです。

 ただし1点だけ違いがあります。組織血液型抗原は、各血液型の人の8割にしか発現しないのです。これを「分泌型」と呼んでいます。残り2割の人は、組織血液型抗原を持っていません(非分泌型)。正確には、より単純な糖鎖が結合しているのですが、ここでは「無し」としておきます。つまり組織血液型抗原で見れば、人間はA・B・AB・Oと、「無し」型の5つに分かれているわけです。

 分泌型の人の全身に、組織血液型抗原が分布しているという事実は、感染症を考えるうえで重要です。ウイルスや細菌は、皮膚に取りついたり、気管や消化管の内壁に取りついたりして、感染を成立させます。その際、人の細胞の表面とうまく接着できるかどうかが、最も重要な問題になります。たとえば新型コロナウイルスは、ウイルス表面のSタンパク質と、人の気管細胞の表面に突き出ているACE2タンパク質がうまく結合して、初めて感染できるのです。そうでなければ、痰などで体外に排泄されてしまいます。コロナに限らず、病原体が感染するためには、こうした何らかの手がかりが必要になります。

 その手がかりとして、組織血液型抗原は有力な候補のひとつと見なされています。なにしろ人体のいたるところに大量に存在するのですから、感染する側からすれば、好都合なターゲットになりえます。そして実際に、消化器や呼吸器の組織血液型抗原を利用して感染を成立させる細菌やウイルスが、何種類か見つかっているのです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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