独白 愉快な“病人”たち

元関脇・豊ノ島さんはてんかんの発作を4回経験…「気づくといつも病室でした」

豊ノ島さん(本人提供)
豊ノ島さん(タレント/39歳)=てんかん

 小学校2年生の冬休みだったと思います。朝、母親に起こされて目覚めたけれど、もう少し寝ようと思ったところから記憶がなくて、気づいたときには病室にいました。姉の話によると、痙攣して泡を吹いて白目をむいている状態だったそうです。びっくりして親を呼んで、親もびっくりして救急車を呼んで……という流れで病院に運ばれたのです。

 目覚めたときの感覚は「長い時間寝たな」というのんきなものでした。ただ、ベッドのそばにいた親が泣いていたので、「何で泣いているんだろう?」と思ったのを覚えています。あとから聞いた話では、1日ほど意識が戻らなかったそうです。

 そのときのことはあまり覚えていないのですが、脳波検査をしたらてんかん特有の乱れがあって、たぶん数日入院したのだと思います。冬休みなのに学校の先生がお見舞いに来てくれて「無事でよかった」と言われた記憶はあります。

 この1回目の発作から、てんかんの薬を飲み始めたと思います。「朝晩絶対飲まなければいけない」と言われて、たまに忘れると母親が学校まで届けに来るくらいでした。きちょうめんに薬を飲んではいましたが、これまでに4回の発作を経験しています。

 2回目は小学校3年生のとき、相撲大会から帰ってくるバスの中でした。てんかんのことは先生にも周囲にも伝えていたので、そのまま病院に連れて行かれて気づいたらまた病室でした。

 3回目は中学2年生のときでした。相撲のクラブ対抗の全国大会で高知県から東京に来て、いろいろな意味で興奮状態でした。大会が終わって、打ち上げも終わって、下級生の子たちを引率してホテルまでタクシーで帰ったとき、タクシーを降りるタイミングでポンと意識がなくなったのです。

 でも、普段からよくふざけて人を驚かせるようなやんちゃ坊主だったので、発作もおふざけだと思われて、しばし道端に置いていかれたみたいです。みんなでホテルの方へ歩き始めたら次の車にクラクションを鳴らされて、倒れたままの自分のところにみんなが戻ってきてくれて、救急車で病院に運ばれました。

 最後の発作は、プロになったあとの21~22歳ごろです。朝稽古が終わって昼寝をし、夕方から出かけようと支度をしていたときでした。急に意識がなくなって、気づいたらやはり病室でした。相撲部屋で倒れたので部屋の人たちが対応してくれたのだと思います。

■最後の発作から約18年間はなにもない

 痙攣して泡を吹いて白目をむく……なんて聞くと怖いんですけど、自分はその自分の姿を見たことがないのでいまだに怖さをわかっていないんです。だから、てんかんに対する抵抗感もありません。むしろ周りの方が怖いですよね。自分は気づくといつも病室ですし、奇跡的にこれまで倒れて頭を打ったり、ケガをしたことはありません。てんかんが危険なのはそこなので、そういう意味ではラッキーでした。相撲をやめる発想にならなかったのも、発作時の自分を見ていなかったからだと思います。

 少年の頃からてんかんのことを隠したことは一度もなく、むしろ明るく「俺、てんかんなんだ」と周りに言うタイプでした。

 とはいえ、水の中で発作が起きたら危ないという理由でプールは見学でしたし、友だちが川遊びしているのに一緒に遊べなかったことは心に残っています。特に低学年の頃は不安がなかったわけではなく、頭痛があったりすると「大丈夫かな」と思いましたし、「寝てそのまま意識がなくなっちゃったらどうしよう」と思って寝るのが怖かったこともありました。

 てんかん発作は、脳神経細胞の電気的活動の中で外からの刺激なしに自発的に過剰な放電が生じて起こる症状です。てんかんにもいろいろな種類があって、自分の場合、小さいときに聞いたのは「特発性部分てんかん」でした。原因不明ですが、良性のてんかんといわれているようです。

 もう最後の発作から17~18年間、なにもありません。相撲部屋に入門した頃から病院にも行っていませんでしたが、じつは現役を引退してから改めて病院で調べてもらったんです。運転免許が欲しくてね。てんかんがあると運転できないんです。でもそろそろ大丈夫かなと思って、調べてもらったら、正式に「免許取っても大丈夫」と言われました。もう薬も飲んでいません。今は忙しいので教習所に行けないんですけれど、時間ができたらいずれは取りたいと思っています。

 今年に入って相撲協会を退職しまして、これからはタレントとしていろいろやりながら相撲の魅力を外側から広げていきたいと思っています。またてんかんについても自分は発信できるので、てんかんの人たちが住みやすい世の中にできるように声を発していきたいと思っています。

(聞き手=松永詠美子)

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