Dr.中川 がんサバイバーの知恵

がん専門医の私が受け止めた坂本龍一さん晩年のメッセージ

坂本龍一さん(C)日刊ゲンダイ

「健康とか身体とか、ほとんど考えたことがない。万に一つも疑ってなかった。それを後悔しましたよ、もちろん。自信過剰になってたなって」

 がんの専門医として40年目、がん患者3万人を診察してきた経験から、診断直後に坂本さんのように動揺する方は少なくありません。その一方で病気を受け入れて、診断当初から少なくとも私の前では心を乱さず冷静に治療に取り組む方がいるのも事実です。その違いは何か。

 健康なときから自分の体にきちんと向き合っているかどうかでしょう。番組の途中で「おかしいなと思ったらすぐ診察に」とのメッセージが語られますが、確かにそうですが、正解ではありません。がんは、健康で絶好調なときにできているからです。

 事実、私の膀胱(ぼうこう)がんがそうでした。全くの無症状です。「異変を感じたら、すぐに受診」では、治療が間に合わないかもしれません。「体や命は、極めて脆弱(ぜいじゃく)なものである」と思うこと。これが、私自身ががんになった、がん専門医の教訓です。

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中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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