このANPにがん転移を防ぐ働きがあるというのは驚きだが、わかったのは偶然からだという。
「私は呼吸器外科医として肺がん手術を多数手掛けました。肺がんの患者さんは、手術後2割程度が不整脈に苦しみます。これを予防する目的でANPを使ったところ、不整脈が減るとともに、肺がんの再発率が大きく下がったのです」
実際に肺がん手術を受けた患者を「手術のみ」と「手術+ANP投与群」とにわけて2年後の無再発生存率を比べたところ、前者が67%、後者が91%と手術+ANP投与群の方が圧倒的に予後が良かったという。
■大規模多施設研究がスタート
その後、肺がんや乳がん、大腸がんの細胞をマウスに移植して行った動物実験でも、転移を防ぐ結果が得られた。また、悪性黒色腫を使った実験では、ANPを働かなくしたマウスは心臓にがんが転移。このことから、ANPはがんの転移を防ぐ働きがあると考えられるようになったという。