天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

左心耳縮縫術で脳梗塞を予防する

順天堂大医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ


 心臓手術後の脳梗塞を予防する手術があると聞きました。それはどんな方法で、どうしたら受けることができるのでしょうか。(73歳・女性)


 脳の血管が詰まって起こる脳梗塞はいくつか原因がありますが、全体の3分の1は心臓が原因となる心原性脳梗塞です。そして、その9割が「左心耳」で形成された血栓によるものであることがわかっています。

 左心耳とは、心臓の左心房の上部にある袋状に突起した部分です。心臓が細かく不規則に収縮を繰り返す心房細動が起こると、ここの血流が悪くなるため、血栓ができやすくなります。その血栓が移動して脳の血管で詰まると、脳梗塞が起こるのです。

 心臓の手術を受けた患者さんは、どんなに手術が完璧だとしても、術後に脳梗塞を起こすリスクがアップします。心臓の手術では一時的に心臓の膜を切開し、再び縫って閉じる処置が行われます。回復する過程において、どうしても縫い合わせた部分が癒着を起こすため、心臓が血液を蓄える際に拡張する機能が制限されてしまいます。その分、トータルでの心機能が低下するので、左心耳も含めた心臓内では血液によどみができて血栓が形成されやすくなり、脳梗塞の原因になっていくのです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。