高齢者の転倒は、自宅内の廊下が23%、寝室が14%、居間12%、トイレ9%など、多くの場合、屋内で起きているのだそうです。高齢者の転倒は大腿骨頭骨折に繋がりやすく、そのまま立ち上がれなくなり、寝たきりになることで認知症を誘発することにもつながります。ヒトは移動するときに視覚からの情報を頼りに無意識のうちに状況を判断し、足を上げたり障害物をよけたりしています。ですから、ご質問の「合った眼鏡をかけていないと介護状態になる」という文章はあながち見当外れとは言えません。
岩手県の眼科医鈴木武敏氏らは2019年の臨床眼科学会で、つまずきやすさの因子として、つま先75cmでの視力、立体視、視野障害の順に関係が深いということを発表しました。井上眼科病院名誉院長若倉雅登氏はそれを受けて、「転落転倒の危険があれば、自ずと行動範囲は狭くなるだろう。視覚の不都合や疲れがあれば、そうした気力も萎えるかもしれない。そういう意味でも眼鏡のような副作用のない器具で矯正できるものを面倒がるとか、治療できる眼疾患をいい加減に放置しておくことは、その人の人生にとって決して得ではないことがわかるだろう」と述べています。
私も全く同感に思う所です。「まだ見えているから大丈夫」と自己判断せず、定期的に眼科を受診して目に疾患が出ていないか確認し、何もなければその人に合った眼鏡やコンタクトレンズを使用して暮らしていただくことは、転倒予防の観点からも、大変重要なことと思います。
みんなの眼科教室 教えて清澤先生