独白 愉快な“病人”たち

体全体のバランスにも違和感が…大島花子さん顔面神経麻痺を振り返る

大島花子さん(本人提供)
大島花子さん(シンガー・ソングライター/48歳)=顔面神経麻痺

 2017年10月、茨城で行われたコンサート会場の楽屋で鏡を見たら左眉がすごく下がっていてびっくりしました。

 振り返れば、その日の朝から唇になんとも言えない違和感がありました。お昼にパスタを食べたときも「食べづらいな」と思って、気になったのでトイレの鏡で顔のチェックをしたのです。そのときは「大丈夫」だったのですけど……。

 楽屋で異変に気付いて、すぐに友人の医師に電話をしました。症状を告げると電話越しに軽く問診してくれて、手足が正常に動くことを確かめたあと、「顔面麻痺は脳梗塞などが原因のこともあるけれど、言葉もしっかりしているし、体も動くからたぶん脳ではなく顔面神経の障害だと思う。今すぐ倒れるわけじゃないけれど、大きな病院に行ったほうがいい」とアドバイスされました。

 脳のトラブルではなさそうだと聞いて、ひとまずホッとしました。自分が思っているほど外見にも歌声にも影響がなかったので、コンサートはそのままやり切りました。「何事かあれば、私がなんとかするから!」と、共演者の方に言っていただいたのも心強かった。

 終演後、その足で茨城から東京に帰り、救急で病院に直行しました。CT検査をすると、やはり「脳に異常はない」とのことでひと安心し、翌日、紹介された耳鼻科を受診しました。

 すると、よくある症状なのか少し問診しただけで「特発性顔面神経麻痺」と診断され、ステロイド治療となりました。投薬という選択肢もありましたが、点滴のほうがより効き目が高いとのことで、1週間毎日通院して治療を受けました。

 特発性顔面神経麻痺は、顔面の神経が麻痺する原因不明の病気です。眉が下がる、まぶたが閉じないといった症状が顔の片側に出ることが多く、聴覚過敏も主な症状といわれています。

 私も物が食べづらかったり、噛みづらかったり、歯磨きがしにくかったりしたことに加えて、聴覚過敏になって食器が当たる音や外の騒音がやたら大きく聞こえました。体全体のバランスにも違和感があって外を歩くのが怖かったので、病院以外はほとんど家で過ごしました。

 この病気は発症から2~3日後がピークで、その後はだんだん落ち着いてくるといわれていて、だいたいその通りでした。ステロイド点滴のあとは、「メチコバール」(ビタミンB12を主成分とする傷ついた神経回復に関わる薬)の服用とリハビリ通院を続け、1カ月ほどでライブができるくらいまで回復しました。その間に子供の運動会をこっそり見に行ったりもしました。

 受診が早かったので軽症で済んだのですが、耳の違和感がなかなか消えず、リハビリは2~3カ月続けました。

■「無理のない生活」を心がける

 その頃にどなたかに教えてもらった「玄米カイロ」(玄米を袋に詰めたものを電子レンジで温めて使うエコな温熱グッズ)は愛用していて、今でも疲れたときやエアコンで冷えたときなどには顔や耳回り、首、肩などを温めるようにしています。体を冷やさないことが大事なポイントのようです。

 特発性顔面神経麻痺は原因不明の病気といわれていますが、体の抵抗力が落ちたときに発症することが多いそうです。言われてみれば、当時の私は仕事もさることながら小学生の息子の子育てで無理をしていたかもしれません。

 病気をしてみて、改めて「無理のない生活」をしなければいけないと思いました。そのために疲れはその都度取ることを心がけています。一番は睡眠ですね。睡眠の質を上げることを心がけています。お風呂は寝しなに入るのではなく、上がってから少し間を開けて眠りにつくほうがいいと知りました。お風呂で温まった体温が下がったところでベッドに入るのがいいようです。一方で、午前中はストレッチをして交感神経を起こすようにします。ヨガマットを敷いてストレッチポールを使って筋肉をほぐしたりしています。

 健康と向き合うきっかけをくれたという意味で、学びはあったと思っています。でも、じつは過去にも健康の大事さを思い知った経験がありました。

 30歳ぐらいのとき、大きめの子宮筋腫が見つかったのです。でも悪いものではなかったので切除せずにいて、そのまま36歳で出産もしました。ただ、2人目の子は死産になってしまいました。原因は特定できませんでしたが、その1年後ぐらいに今後の妊娠の可能性も考慮し、お医者さまと相談して筋腫を取る手術をしました。

 顔面神経麻痺は、それ以来の病気。もう更年期に差し掛かっていますし、自律神経を整えることがだんだん難しくなっていくので、体の声を聴くことが大事だなと思っています。

(聞き手=松永詠美子)

▽大島花子(おおしま・はなこ)1973年、坂本九、柏木由紀子の長女として東京に生まれる。妊産婦支援や親子ライブ、行政主催の人権啓発イベント、被災地支援ライブ、介護施設やホスピタルでのライブなどを精力的に行っている。最新アルバム「百日紅の木の下で」が発売中。公式HP〈https://hanakooshima.com/〉。

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