医療だけでは幸せになれない

選択バイアス、情報バイアス、交絡因子…コントロールできるバイアスと、できないもの

写真はイメージ(C)PIXTA

 そこで次にこれらのバイアスをどうコントロールするか、ということになる。前々回、高血圧の例で紹介したランダム化比較試験は、このうち交絡因子をコントロールするために、降圧薬を飲む群と飲まない群をランダムに、何の規則性もなく割り付けているという研究手法である。逆にこのランダム化が行われていなければ交絡因子が避けられない研究の可能性が高いということである。

 さらにこの研究がランダム化二重盲検試験になれば、飲んでいる薬が、見た目には区別がつかず、医師も患者もどちらを飲んでいるかわからないようにして情報バイアスを避ける方法である。しかし、現実には実際の薬を飲んでいれば血圧が下がりやすいし、偽のプラセボを飲んでいれば下がりにくく、研究の過程ではどちらを飲んでいるのかばれやすいという問題もある。

 マスクの研究になれば、見た目が同じ偽マスクを使用するというのはかなり困難だ。情報バイアスを完全に避けるのもまた困難なのである。さらには、ランダム化二重盲検試験であっても、選択バイアスは避けがたい。前回、紹介した自己選択バイアスである。大ざっぱに言えば、バイアスを適切に避けた研究は困難なのである。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

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