天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

脳に障害与えるリスク負ってまで手術する必要はない

 また、現在は血圧降下剤を服用しているとのことなので、病状を進行させないような対策もできています。大動脈弁閉鎖不全は収縮期血圧が上がって拡張期血圧が下がる傾向があるのですが、いまはその血圧の上下幅を狭めるARB製剤などの薬もあります。そうした薬をうまく使えば、病状を進行させずに心臓の機能を落ちないように維持することも可能です。

 かつて、私も同じような患者さんを診た経験があります。当時90歳で、それから3年間ほど経過観察を続け、結局、手術はしませんでした。93歳でお亡くなりになりましたが、心臓が原因ではありませんでした。薬を服用できているうちは、脳に対するリスクを負ってまで心臓の手術をする必要はないといえます。

 しかし、腎機能が衰えて血圧降下剤が飲めない状況になったり、心臓の検査データから完全に手術適応の段階に入ったら、手術を考えることになります。その際は、脳神経外科と心臓外科がしっかり連携し、状態によっては、大量の血液が頭部にたまってしまう事態に備えて穿頭ドレナージを併用し、血液をすぐに排出できる状態にして心臓手術を行うことも検討しなければならないでしょう

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。