また、現在は血圧降下剤を服用しているとのことなので、病状を進行させないような対策もできています。大動脈弁閉鎖不全は収縮期血圧が上がって拡張期血圧が下がる傾向があるのですが、いまはその血圧の上下幅を狭めるARB製剤などの薬もあります。そうした薬をうまく使えば、病状を進行させずに心臓の機能を落ちないように維持することも可能です。
かつて、私も同じような患者さんを診た経験があります。当時90歳で、それから3年間ほど経過観察を続け、結局、手術はしませんでした。93歳でお亡くなりになりましたが、心臓が原因ではありませんでした。薬を服用できているうちは、脳に対するリスクを負ってまで心臓の手術をする必要はないといえます。
しかし、腎機能が衰えて血圧降下剤が飲めない状況になったり、心臓の検査データから完全に手術適応の段階に入ったら、手術を考えることになります。その際は、脳神経外科と心臓外科がしっかり連携し、状態によっては、大量の血液が頭部にたまってしまう事態に備えて穿頭ドレナージを併用し、血液をすぐに排出できる状態にして心臓手術を行うことも検討しなければならないでしょう
天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」