天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

出血繰り返す合併症があると手術は難しい


 心臓弁膜症で手術を勧められましたが、糖尿病網膜症による眼底出血を合併しているため、まだ手術はできないと言われています。網膜症の状態と血糖値のコントロールを優先させなければならないのでしょうか。(76歳・女性)


 心臓をいったん停止させ、人工心肺を回す手術では、「ヘパリン」という血液をサラサラにする薬を大量に使います。それだけ出血しやすい状態になるため、心臓病以外に出血を伴う合併症がある患者さんは、大出血を起こして深刻な状態を招くリスクが高くなります。

 糖尿病網膜症は、糖尿病の3大合併症のひとつで、日本人の失明原因の第1位になっている病気です。血糖値が高い状態が続くと網膜の血管がダメージを受け、出血を起こすようになります。

 出血している状態で心臓手術を行えば、さらに出血を助長して最悪、失明してしまう危険もあるのです。いまの段階では、手術は避けた方がいいでしょう。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。