介護の現場

介護のための単身帰郷で離婚の危機

 定年間近になって、藤沢さんは妻に「退職したら、故郷に住まないか」と何度も誘った。ところが、そのたびに妻は「寒い秋田に住むのは嫌だ」と断った。

「女房も一人娘で、両親が大阪に住んでいる。秋田が寒いから嫌だというのは口実で、自分の親まで捨てて、俺の親など面倒見られない、というのが本音だったのでしょうね」

 退職後、半年に1回ペースで帰郷し、2、3日泊まって東京に帰っていた。ところが2年前、82歳になっていた母親が2階の階段から足を踏み外し、大けがを負ってしまう。

 入院した母を介護するため、藤沢さんは単身、故郷に帰った。半年ほどして、杖を利用しながらも、ようやくトイレに行けるほどまでに回復する。だがすっかり足腰が弱り、食事作りや、雨戸の開閉など自宅の管理もできなくなっていた。

 藤沢さんは、妻の要求で退職金と月々二十数万円の年金も均等に分け合っていた。まだ70歳前で、体力にも自信がある。もう少し働きたいし、生活費にも余裕がほしい。故郷の地元紙に出ていた求人広告を見て、派遣店員の仕事を始めた。月収は13万円前後である。妻とは時々、電話で話す。

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