天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

採決後の処理をしていない生血は使用しない

順天堂大医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 現在、手術の現場で行われる輸血では、採血してから何も処理しない「生血」を使うケースはほとんどありません。GVHD(移植片対宿主病)という致命的な合併症を起こす可能性が明らかになったからです。生血には提供者の白血球が含まれています。それが患者さんの体内に入ると、患者さんの体を“敵”と見なして攻撃してしまうケースがあるのです。

 GVHDが起こってしまうと、多くの臓器が障害を受け、患者さんはほとんど助かりません。残念ながら、私も過去に2例ほど経験しました。同じ血液型だからといって、うかつに生血を輸血するのは禁物なのです。

 ただし、今はしっかりした対策が行われています。採血した後、生血に放射線を当て、白血球の活性化を失わせてから輸血に使うというのが標準化しています。

 赤十字血液センターの輸血製剤の場合も、保存期限があるいわゆる輸血の場合にはすべて放射線照射を行い、有害な免疫反応を抑制しています。また、輸血から分離した成分で作る血液製剤に関しても、加熱処理してウイルスを死滅させ、抗原性についても不活性化させています。現在は緊急の輸血でも血液センターがほとんど対応してくれますので安心ですが、献血が不足する冬場は我々も身構えなければなりません。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。