Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【大橋巨泉さんのケース】がん治療と緩和ケアのバランス

大橋巨泉さん(C)日刊ゲンダイ

■不十分な医療体制

 では、なぜ大橋さんのようなことが起こったのか。断定はできませんが、恐らく過剰投与があったと思われます。

 緩和ケアを行う医師の認識はバラつきがあり、その医療体制としては不十分と言わざるを得ない現実があるのです。過剰投与の一方、過少投与もあり、大学病院ですら、がんの激痛に苦しみながら人生の幕引きを迎えるケースが少なくありません。がん対策基本法の立法趣旨のひとつに緩和ケアの普及があるのは、現実は緩和ケアが不十分であることを暗に示しています。

 がんの治療と緩和ケアは決して対立するものではありません。がんと診断されたときから亡くなるまで、病状や進行などによって、それぞれのバランスが大切なのです。その点に着目すると、がんの名医の条件は、がんの治療と緩和ケアのバランスを取れること。そんな医師が、患者さんにとっての名医なのです。

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中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。