ここ数年、年間10人を超える死をみとっている石飛医師は、病院での介護ケアの限界を感じている。それを物語るのが次のようなエピソードだ。
■寝たきり高齢者がビールを飲んで元気に
脳梗塞で倒れたAさん(76歳)は、「胃ろう」(腹部に穴を開け、直接胃に栄養を投与する)装置を付け6年間もベッドに伏していた。
大口を開けたまま、言葉はもとより喜怒哀楽の意思表明もできないAさん。寝たきり状態だ。
ある日のこと、Aさんの片方の手指が何度も、一定の方角を指していることに看護師が気づいた。その指先の棚に、1本の缶ビールがあった。石飛医師や老人ホームのスタッフが注目した。
「ひょっとしたら、Aさんはビールを飲みたいのではないか。指はその意思表示ではないのかと思いました」(石飛医師)
「多死社会」時代に死を学ぶ