父に、切手を貼りつけた大量の絵はがきを渡した。「なんでもいいから書いて毎日ポストに出しに行って」と。
字を書くこと、書く内容を考えること、そして家の真ん前とはいえポストまで歩くことで運動効果も得られると思ったのだ。
初めのうちは毎日はがきが来た。宛先も文面も微妙に斜めだが、よしとしよう。「猫は元気か」「こっちは桜が咲いたぞ」「毎日暑いな」など毎回中身のないことが書かれていた。
しかし、だ。どんどん間が空くようになった。文字は異様に斜めになり、「郵便局の人もよく読めたな」という梵字級の悪筆に。そして一切届かなくなった。
後で聞いた話だが、後半、ポストに出しに行っていたのは母だったという。本末転倒! 作戦失敗! 向田邦子に土下座して謝りたい。
実録 父親がボケた