Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

前立腺がんの放射線治療を最大限活かす「1センチの隙間」

ロッド・スチュワートは3年前に前立腺がんが見つかった(C)DPA/共同通信イメージズ

 ところが、そんな直腸障害を低減させる医療材料が認可されたのです。ハイドロゲルスペーサーがそれで、局所麻酔で会陰部から針を挿入し、直腸と前立腺の間にハイドロゲルを注入します。体内に入ったゲルは数秒で固まってゲル化し、3カ月ほど安定し、1センチ程度の隙間ができるのです。これにより、前立腺に強い放射線を照射しても、直腸への影響を防ぐことができます。ゲルは治療後、半年から1年で体内に吸収されます。

 米国の比較試験では、スペーサーありの直腸障害は2%でしたが、なしは7%と有意に高い。尿路や性機能などのQOLは、ありが明らかに勝っていました。東大病院でも良好な結果が得られています。

 前立腺は通常照射だと38回と2カ月近い時間が必要ですが、ピンポイントで病巣を叩く強度変調照射のIMRTは5回。IMRTとスペーサーを組み合わせれば、仕事がある人も5回の半休で治りますから、治療と仕事の両立も難しくありません。

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中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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