当時の私に与えられた課題は、胃悪性リンパ腫の症例の標本を調べることでした。その肉眼所見は胃がんのように決まった型はなく、佐野先生は「ゴミ箱をひっくり返したような所見だな」と表現されました。
佐野先生の著書「胃と腸の臨床病理ノート」や「胃疾患の臨床病理」は、医学書の中で歴史に残る名著だと思っています。胃炎、萎縮性胃炎の進み方から、がんの発生、早期がんの形態、進行がんへの進み方……そこには佐野理論の世界があります。
ほとんどの胃がんは、慢性萎縮性胃炎を基にできており、病理医は手術で切除された胃を診て、どこまでが萎縮性胃炎で、どこまでが早期がんか、組織学的、肉眼的所見を明らかにします。そして、それが胃X線検査や内視鏡検査で描出できているか、読影できているかについて、消化器内科・外科医、放射線診断医、内視鏡診断医が集まって詳細に検討し、診断技術が磨かれていきました。
がんと向き合い生きていく