名医が答える病気と体の悩み

認知症の親が、がんの手術を迫られた…症状が悪化するリスクは?

長期入院そのものが認知機能の低下リスクを高める

 ただ、論文では「問題ない」とする研究結果と、「認知機能を低下させる」という研究結果があり、結論は出ていません。さらに、麻酔方法(全身麻酔か局所麻酔か)や麻酔薬の種類をはじめ、手術の侵襲度、手術時間、出血量、手術中の低血圧や低酸素、低体温といった別の因子が関連するため、麻酔薬だけにリスクがあると言い切るのも難しい。

 ただし、麻酔薬を投与すると「術後せん妄」のリスクを高めることは分かっています。手術を契機に起こる認知機能障害で、手術数日後から、錯乱・幻覚・妄想状態を起こします。認知症症状との違いは一過性であること。数日から数週間程度で落ち着きます。自然に回復することも多いですし、入院中であれば薬剤である程度症状を抑えることもできます。

 せん妄は高齢者の術後合併症の中では最も多く、75歳以上の胃がん、大腸がんの手術後に27%の方に術後せん妄が起こったという報告もあります。問題は転倒のリスクが上がることで、術後に骨折など大きなケガをして寝たきりになれば、それがきっかけで認知症症状が悪化する危険もあるのです。

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