がんと向き合い生きていく

新型コロナは「人の別れ」に大きく関わる…まだ安心できない

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

■「ヒューマニティー」の語源は「埋葬する」

 このメールを目にして、終戦の頃、篠原正瑛という哲学者が「ヒューマニティー」という言葉の語源は「埋葬する」と書いていたことを思い出しました。

「ご遺体を粗末にして、人を愛せることなど出来るはずがない」

 がん患者の場合は、終末期の告知などいろいろな場面があっても、たとえあと3カ月の命と言われても、考える時間、そして看取る時間はありました。しかし、コロナによる死は、考える時間がない、家族の看取りも出来ず、亡くなっても遺体にも会えず、焼き場でも立ち会えず、骨になって家族に渡されたという報道がありました。たしか、亡くなられた岡江久美子さんや志村けんさんの時もそのようだったと記憶しています。

 この不条理さは何なのでしょう。この3年間、病院で亡くなった方の看取りは、どこまで許されたでしょうか? 病院側はクラスター発生を怖がります。いろいろ配慮されたと思いますが、家族の面会制限は1日30分とか、2人までとか、厳しかったと聞きます。「人の別れ」にコロナは大きく関わりました。さよならも言えずに別れた方も多かったのではないでしょうか? 葬儀も簡略化され、家族葬という形が増えたようにも思います。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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