医療だけでは幸せになれない

なぜ、感染症と高血圧の治療効果を同一に語ってはいけないのか

渋谷のスクランブル交差点を行き交う人たち(C)共同通信社

 以前紹介したデンマークでの研究で1カ月間のコロナ感染にかかる率の差がマイナス0.3%で、95%信頼区間はマイナス1.2~0.4、また相対危険は0.82、95%信頼区間は0.54~1.23という結果を紹介した。これが患者個人にかかわる降圧薬の5年間の効果であれば、降圧薬はやめておこうかとなるかもしれない。ところが感染症ではそういうわけにはいかない。これが10カ月になれば、1年、2年になればとなると、マイナス0.3%が3%になり5%になるかもしれない。統計学的に差がなかったとはいえ、感染を半減させる効果の可能性は残されている。さらには観察研究を含んだメタ分析では、事実、感染を半減させるという結果が統計学的にも示されている。

 集団に対する結果はこのようにあいまいになることも多い。その場合、どう判断するのかはむつかしい。個人への影響と同じように、そのデータ解析の結果のみで判断するには、社会的影響が大きすぎるからだ。つまり、集団に対する結果のあいまいさは、集団に対してマスクを勧めないという明確な判断にはつなげにくいのである。むしろまだ強制した方がいいのではという判断も十分ありうる。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

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