がんと向き合い生きていく

「がんだったとしても何もしない」…妻にそう宣言した知人から電話があった

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 CT検査の当日の夜、Aさんから再び電話がありました。

「おーい。CTでは何もなかったってよ。前にかかった肺炎の影が収束して、濃く見えただけだったって」

 ただAさんは、CT検査の結果を告げられた診察の時に、担当医にこう詰め寄ったといいます。

「何もなかった? でも、先生はがんかもしれないって言ったよね」

 何もなくて良かったはずなのに、不満そうに話すのです。

「がんかもしれないと言われたら、患者はきっとがんだろうと思うじゃないか。この1カ月、いろいろ考えたのは何だったのよ。まったく、あの医者は……」

 私は「良かったじゃない。何もなかった。患者にとって、それが一番。担当医は心配してくれてCTを撮ったのよ」と答えました。それでも、Aさんは不満そうな口ぶりでしたが、何もなかったからこそ漏らせる言葉だと思うのです。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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