独白 愉快な“病人”たち

強直性脊椎炎と闘うタレントの十條莉緒さん「ドクターを調べ上げて病院を渡り歩いた」

タレントの十條莉緒さん(C)日刊ゲンダイ
十條莉緒さん(タレント/23歳)= 強直性脊椎炎

 一度診断がついても治療の効果がなくて、最後はいつも「メンタルクリニックへ行ってみてください」と言われ続けてきました。何軒も何軒も病院を変えて、じつに4年の歳月を経て、ついに「強直性脊椎炎」という難病にたどり着きました。

 はじまりは10代の頃でした。胸痛と関節痛に加え、38度ぐらいの熱が頻繁に出るようになったのです。芸能事務所から「体調管理ができてない」と注意を受けるようになって、大学病院を受診しました。採血でCRP(炎症マーカー)の数値は少し高いものの、MRI検査では異常がなく、「ストレスが原因」と診断されました。その後はメンタルクリニックを受診して抗うつ剤を半年間服用しました。

 でも体は楽にならず、同じ年の夏には高熱が出て関節痛で歩けなくなり、大きな大きな仕事を降板することに……。掴みかけていた夢は星のようにきらびやかに散っていきました。そこから波乱の闘病生活が始まります。町医者を転々としたものの、どこもコロナ禍のため発熱者は門前払い。自力では歩けなくなった頃にようやく1カ月の入院ができました。

 検査の末、腸に炎症があることがわかって「腸管型ベーチェット病」と診断を受けました。治療は潰瘍性大腸炎や関節リウマチにも使われるヒュミラという薬を自己注射すること。しかし、関節痛は治らず、副作用のめまいが頻発するようになりました。仕事の焦りも募り、ちゃんと専門医がいる大学病院で診てもらおうと思い、症例数が多い都内の大学病院を受診し、炎症性疾患に使われるレミケードを2カ月に1回点滴投与しました。

 けれど、4カ月通ってまったく良くなる気配がなかったのです。このタイミングで事務所を辞め、治療に専念することにしました。SNSでドクター情報を呼びかけつつ、症例の似ている病気の論文を読んで「これだ」と思ったドクターや病名を調べ上げ、病院を渡り歩きました。

 症状が出てから2年が経った頃、満足に動けない状態で受診した都内屈指の有名病院でも原因はわかりませんでした。先生を困らすことしかできない自分と体に嫌気がさし、自分不信にもなりました。

 でも、この有名病院の膠原病科の先生と出会ったことで私は救われたのです。経験や生き方が自分とよく似ていました。共感する点が多くて、安心できる存在でした。この先生のおかげで「看護師になる」という目標ができたのです。

 夢は私にとって生きる光になりました。どんな困難があれど私の経験がいつか患者さんの役に立てるなら耐えられる気がしたのです。自分のような思いをする人を救いたい。その一心でした。そのためにも、私はこの試練に病を克服しなければならなかったのです。

タレントの十條莉緒さん(C)日刊ゲンダイ
自分で原因を突き止めてやる!と決意

 しかし、病院やクリニックを転々とするものの不調の原因がわからないまま。本当に私はおかしいのかもしれないと思いました。でも弱気になってもいられません。私には夢があるのですから……。「こうなったら自分で原因を突き止めてやる!」と決意したのはこのときです。

 自分の症状が「線維筋痛症」に近いと思ったので、線維筋痛症の専門医のいる病院に目星を付け、次々に受診しました。そして、日本一のすご腕の院長先生に出会ったのが人生の転機となりました。私の関節を触った段階から膠原病、それも強直性脊椎炎の可能性を挙げていました。CTの映像からもそれが確認されて、とうとう病名が確定したのです。たった1日の出来事でした。

 この病気は仙腸関節(仙骨と腸骨の間の関節)や脊椎の関節が炎症を起こしてこわばる希少難病です。今は注射や投薬によって改善していまして、この春からはようやく看護学校に通えることになりました。先生の目を、腕を、経験を、優しさを、すべてを尊敬します。こんな医療者になりたいです。

 努力が報われないこともあります。でもただひとつ、「生きてさえいれば何でもできる」、そう信じています。そして、「困難はやがて幸せを運んでくる」と思いたいです。意味があるか、ないか、正解か、不正解かは自分のその後の生き方でどっちにもできると思うのです。つらいときは周りを頼って甘えればいいんです。当たり散らしてもいいし、病気のせいにできるならとことん病気を言い訳にしていいです。とにかく一日一日を耐えて生きてほしい。生きてさえいれば何とかなる日がくるかもしれないから。いや、そうでなきゃおかしいとも思う。

 かわいそうだとか特別だとか思ってもらいたいわけではありません。病気があってもなくても、与えられた環境の中で懸命に生きているのは一緒。みんなそれぞれ闘って乗り越えて生きてると思います。何が幸せかはその人その人で違います。病気があることでの困難や不条理はもちろんありますけど、逆に病気だからこそ感じられる幸せや視点もありますから、じつはみんなフェアなんだよって思ってほしいです。

(聞き手=松永詠美子)

▽十條莉緒(とおじょう・りお) 2000年、東京都出身。大手事務所に所属し18年から女優として活動。21年に独立し、フリーで活動している。Amebaオフィシャルブロガーで「Ameba Award」の優秀賞にノミネートされたこともある。病気療養中に心理カウンセラーの資格を取得し、現在は看護師を目指して助手をしながら専門学校で勉強中。

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