天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

バイパス手術は長持ちする血管を使う

 ただ、バイパスにはなるべく長期にわたって心臓を補助できるような、耐久性がある血管を使うのがベストです。長持ちする血管を使ったほうが、早期の治療効果や長期予後が良いというデータがはっきり出ています。中でも、内胸動脈は個体差がほとんどなく、体の中でいちばん動脈硬化が起きにくい血管なのでバイパスに最適です。

 これに対して足の静脈は、患者さんによって傷んでいたり、太さが変わっていたり、個体差が非常に大きい血管です。早い段階で傷みやすく、耐久性は長くても「13~15年」というデータが出ています。動脈に比べて血液が詰まることを予防する抗凝固剤の服用依存度が高いため、胃潰瘍や出血しやすくなるといった副作用の心配もあります。動脈硬化の進行も早く、静脈をバイパスとして使うと、いずれ再手術となる可能性が高くなってしまうのです。

 先日、39歳の女性の冠動脈バイパス手術を行いました。無症候性心筋虚血で急に心不全を起こし、運ばれた地元の病院で検査してみると冠動脈3本の計5カ所が詰まっていました。さらに、糖尿病による動脈硬化があり、腎機能も衰えている状態でした。その病院の医師の説明が釈然とせず、当院にセカンドオピニオンを受けに来たのです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。