一方、初期の認知症でまだ体力があり、手術後のケアもしっかりできる状態の患者さんは、外科医の立場からは手術を行う価値は高いと考えます。いまは認知症初期と診断されれば進行を遅らせるだけでなく、思考・行動の両面で改善を促す治療も試行されています。つまり、手術することによって心臓の機能が回復すれば、その後はかかりつけ医のもとで認知症の管理を中心にケアすればいい状態になります。その分、QOLが高くなるといえるでしょう。
開胸しないカテーテル治療を受けるという選択肢もありますが、その場合は薬を飲み続ける必要があるなど治療が長引きます。活動性が保たれている場合は思い切って手術をしたほうが、一時的な体への負担があってもQOLを高いレベルで維持できる可能性が高いといえます。
当院でも、初期の認知症の患者さんを手術するケースは何度もありました。患者さんは「家族が同意してくれれば、自分は家族の選択に任せる」という方がほとんどです。患者さんの年齢を考えると、手術を受ける機会は1度だけでしょう。ご家族の方が納得いくまで医師としっかり相談し、より高いQOLが期待できる治療法を選択してください。
天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」