天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

高齢の認知症患者も手術できる

 一方、初期の認知症でまだ体力があり、手術後のケアもしっかりできる状態の患者さんは、外科医の立場からは手術を行う価値は高いと考えます。いまは認知症初期と診断されれば進行を遅らせるだけでなく、思考・行動の両面で改善を促す治療も試行されています。つまり、手術することによって心臓の機能が回復すれば、その後はかかりつけ医のもとで認知症の管理を中心にケアすればいい状態になります。その分、QOLが高くなるといえるでしょう。

 開胸しないカテーテル治療を受けるという選択肢もありますが、その場合は薬を飲み続ける必要があるなど治療が長引きます。活動性が保たれている場合は思い切って手術をしたほうが、一時的な体への負担があってもQOLを高いレベルで維持できる可能性が高いといえます。

 当院でも、初期の認知症の患者さんを手術するケースは何度もありました。患者さんは「家族が同意してくれれば、自分は家族の選択に任せる」という方がほとんどです。患者さんの年齢を考えると、手術を受ける機会は1度だけでしょう。ご家族の方が納得いくまで医師としっかり相談し、より高いQOLが期待できる治療法を選択してください。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。