天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

目の衰えをカバーしてくれた“秘密兵器”

 目の衰えが引き金になり、手術から引退する外科医は少なくありません。私の恩師のひとりも、乱視の進行で心臓手術の第一線を退いています。

 私も42歳を越えたあたりから調節力の低下を自覚し、48歳から暗いと見えにくいという症状に変わりました。いわゆる老眼です。

 もともと強度の近視で、ずっとコンタクトレンズをつけていたところに老眼が重なったため、手術の時、ピントを合わせるのに苦労しました。中心視力を上げると、手元の手術針などの細かいものが見えにくくなってしまう。逆に視力を手元に合わせると、肝心の中心がぼやけてしまうという状態でした。

「なんとなく見えにくいな」と感じると手術中の確認動作が増えて時間がかかるようになります。もちろん、患者さんに影響を及ぼすほどではありませんが、自分の中で0コンマ何ミリ以下の精度がズレてきていることを自覚するようになりました。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。