外科医は敗北を経験しても、それをずっと引きずっているわけにはいきません。すぐに次の手術に臨まなければならないからです。私はまず「なぜそうなったのか」を反省し、同時に「そうならないようにするにはどうすべきだったのか」と、改善のための課題を前に投げます。ひたすら前進することで新しい展開が見えてくる。そして、不成功体験が成功体験に変わった時に大きく成長できるのです。
私もまだ成長し続けています。昔はこだわっていた「ゲン担ぎ」も、しばらく前からやめました。かつては、難しい手術に臨むときは同じ縦じまの下着をはいていました。学生時代にテニスをやっていた頃、その縦じまの下着をはくと不思議と勝てた経験があったからです。
しかしある時、それに執着している自分がバカバカしくなりました。物はいつか必ず傷んできます。いずれどこかで捨てることになる。そうなったら、今度はそれに代わる物を探すことになります。それなら、別に「その物」でなくてもいいんじゃないかと思ったのです。
天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」