天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

高リスク患者に適した「TAVI」の懸念材料

 近年、心臓病の血管内治療のひとつである「TAVI」(経カテーテル大動脈弁留置術)が注目されています。高齢化によって増えている大動脈弁狭窄症の患者さんに対し、カテーテルを使って人工弁を留置する治療法で、13年10月に保険適用となりました。

 大動脈弁狭窄症は、血液を全身へ送り出す大動脈弁が動脈硬化などによって硬くなって開きにくくなる疾患で、胸痛や息切れなどの症状が表れ、重症化すると突然死に至るケースもあります。

 悪くなった弁を完全に治すには、これまでは手術しか方法がありませんでした。平均寿命以上の高齢者や合併症を抱えているなどの理由で手術をあきらめざるをえなかった患者さんにとって、治療の道が開けたといえるでしょう。

 TAVIは胸を切開しなくて済むうえ、悪くなった弁を人工弁に取り換える手術(弁置換術)のように人工心肺を使って心臓を止める必要もありません。体への負担が少ない治療法です。手術のリスクが極めて高い人にとっては、手術よりも有効なのは間違いありません。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。