天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

がん患者の処置は次の手術を想定する

 しかし、中には「この患者はどうせ進行がんなんだから、これぐらいやっておけばいいだろ」といったいいかげんな態度で手術に臨む心臓外科医もいることは確かです。医師としてあるまじき行為。外科医ならば、むしろ「これほどのチャンスはない」と思わなければいけません。自分の次にがんの手術をする医師が、「これほど手術をやりやすい状況はこれまで見たことがない」と感服してしまうような手術を見せることができる機会だからです。

 そのためには、次に行われるがんの手術を想定して、心臓手術を進める必要があります。傷の治りがなるべく早く済むような方法を採用したり、次に手術をする医師が切開をするときに気にならないような場所を選んで処置をすることもあります。

 同時に、患者さんが手術後に自分の体を鏡に映して見たときに「こんなに傷痕がついてしまったのか……」と思わせてしまわないような処置もしなければなりません。患者さんが「ここから本当に良くなるんだろうか?」と感じてしまうか、「ここから良くなるんだ!」と感じるかでは、がんの手術も含めたその後の回復度合いが大きく変わってきます。

 がんを抱えている患者さんの後々のことまでを想像して、それを実行できるか。これが“先発投手”ならぬ“先発外科医”の役割なのです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。