天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

時間の巻き戻しに挑戦 大阪大の心筋再生治療

 今回の心筋再生治療が素晴らしい点はまだあります。心臓の筋肉を再生させるために「骨格筋芽細胞」を使ったところです。

 再生医療に利用される細胞には、ほかに「iPS細胞」があります。しかし、骨格筋芽細胞とiPS細胞には大きな違いがあるのです。iPS細胞は「未分化細胞」、骨格筋芽細胞は「高分化細胞」という違いです。

 細胞というものは分化をどんどん繰り返して、ある特定の機能を持つようになります。未分化細胞はまだ分化していない細胞なので、心臓や胃腸など体のどんな器官にもなることができるのです。一方、高分化細胞である骨格筋芽細胞はすでに骨格筋になっている細胞なので、筋肉にしかなりません。

 普通の研究者なら、どんな細胞にも変わることができる未分化細胞を重視する人が多いでしょう。仮に心臓で考えた場合、筋肉だけでなく弁や血管などをつくり出すことも可能になるわけですから、未分化細胞に魅力を感じるはずです。しかし、澤教授は高分化細胞である骨格筋芽細胞を選択した。ここがすごいところです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。