実は、未分化細胞には大きな欠点があります。がん化したときの悪性度がはるかに高いのです。臓器ががんに侵されたとき、「未分化型」と診断されたらほとんど助からないと考えてもいい。逆に「高分化型」のがんは治るケースが少なくありません。つまり、心臓の筋肉や弁などを再生させるために未分化細胞を利用した場合、すべてが高度に悪性化してしまう可能性もあるのです。
そもそも心臓というものは、弁が壊れていても、血管がボロボロでも、筋肉の機能さえ残っていれば、生きることができます。そんな心臓にとって何より大切な筋肉という機能をつくり出すために、あくまで筋肉のもととなる骨格筋芽細胞を選択した。素晴らしい発想だと思います。私が勤めている順天堂大も、今回の心筋再生医療の実用化に協力したいと考えていて、私も参加を後押ししています。
循環器医療に携わっている医師にとって、「心臓をよみがえらせる」というのは、ひとつの大きなテーマです。心臓というものは生きている間は休まず鼓動を続け、鼓動が終わった時点で死を迎える。へばった心臓が弱っていく流れは止めることができないといわれています。心筋再生治療はそんな心臓の「時間を巻き戻そう」という試みなのです。
天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」