天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

3年後に再会した70歳の患者が連れていたのは…

 以前、弁膜症の手術をした当時70歳の男性患者さんがいました。それまでは、心臓に電気刺激を与えて鼓動を促すペースメーカーが植え込まれていたのですが、弁の交換とあわせてペースメーカーを取り外し、心房細動を治すメイズ手術も行って、規則正しい脈拍が戻りました。

 3年後、その患者さんがわざわざ挨拶をしに来てくれたのですが、幼い子供を連れていました。思わず「お孫さんですか?」と聞いてしまいそうでしたが、驚いたことにご自身の子供だといいます。手術後に再婚して、子宝に恵まれたというのです。心臓が元気になったからこそ、夜の生活も取り戻そうという気持ちになったのでしょう。

 手術を受けた後、海外旅行で16カ国を回ったという方もいらっしゃいました。心臓病の患者さんは、常に「心臓にアクシデントが起こるんじゃないか……」という不安を抱えていて、そのストレスが行動を抑制しています。手術によって不安が取り除かれると、やりたかったことをやってみようという気力が湧いてくるのです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。