天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

オフポンプ手術が負担を軽減させる

 当時は、「オフポンプ手術は人工心肺などの医療機器を使用しない分、病院の現金収入が約80万円減ってしまう」という現実的な問題もありましたが、勤務していた新東京病院の理事長がバックアップしてくれたことで、積極的に進めることができました。さらに、スタッフたちの努力もあり、97年には冠動脈バイパス手術の年間症例数が約350例に到達、日本一の病院になれたのです。

 陛下の手術に携わらせていただけたのも、ずっとオフポンプ手術の先頭にいたことが大きかったと思っています。

 現在、日本で行われている心臓手術の3分の2はオフポンプ手術です。この数字は世界的にも高水準で、日本はオフポンプ手術の先進国といえます。00年の時点では全体の15%程度しか行われていませんでしたが、他の心臓外科医と一緒に十数年かけて啓蒙活動してきたことで、ここまで浸透しました。

 オフポンプ手術こそが患者のためになるという流れができたことをうれしく思ってます。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。