Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【菅原文太さんのケース】医師は膀胱全摘を提案。でも、温存できた

菅原文太(C)日刊ゲンダイ

 結論からいうと、放射線治療のひとつ、陽子線治療を提案しましたが、当時の文太さんのようなステージ2の膀胱がんは手術による全摘が主流で、標準治療になっています。ステージ1の5年生存率は94%、ステージ2は87%と治療成績は決して悪くはありませんが、“袋”を着けずに膀胱を温存して治した人はレアケースといえます。

 治療から5年後、「がんサポート」という雑誌で対談したとき、文太さんは「こんないい治療がどうして普及しないのかね」と漏らしていたことが、医療の実態を反映していると思います。

 泌尿器科医は外科医ですから、手術するのが仕事。当初、手術に気持ちが傾いた文太さんは「手術以外の説明を受けていない」とおっしゃっていましたが、そういう説明がなされる背景には、こんな事情もあります。

 しかし、読者の皆さん、心配ありません。治療法次第で、膀胱は温存できるし、そういう治療法を手掛けている医師も確実にいます。

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中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。