薬に頼らないこころの健康法Q&A

「うつ病」だと思ったら貧血だった!?

井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授(C)日刊ゲンダイ

 この女性の場合は、4カ月前の定期健康診断の採血では、貧血だとは言われていなかったようです。これは、おそらく採血の際のヘモグロビンの量が一定値を超えていたため、貧血とはみなされなかったのでしょう。

 体の中の鉄については、通常の健診でチェックするヘモグロビンの値だけをみても、貧血の実態はつかめません。この点は、血糖値だけをみても糖尿病の実態をつかめないことと似ています。貧血の実態は、ヘモグロビンの値ではなく、体内に蓄えられた鉄の量をみなければなりません。現在の検査技術では、体内貯蔵鉄を最も反映しているのが血清フェリチン値というものです。

「血清フェリチン値がこの値だと貯蔵鉄はこれぐらい」といった目安があって、それにしたがって貯蔵鉄の減り具合を推定しているのです。

 最近、医者たちの間でしばしば警告されているのは、「ヘモグロビン値だけで判断するな」ということです。ヘモグロビン値は正常値なのに、血清フェリチン値が異常低値にある人は珍しくありません。したがって、健診で貧血を指摘されていなくても、実は貧血という場合はあります。20~40代の女性でうつ病ではないかと思われる人の場合、その可能性を念頭に置く必要がありそうです。

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井原裕

井原裕

東北大学医学部卒。自治医科大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学大学院博士号取得。順天堂大学医学部准教授を経て、08年より現職。専門は精神療法学、精神病理学、司法精神医学など。「生活習慣病としてのうつ病」「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」「うつの8割に薬は無意味」など著書多数。