この遺伝子は子供に受け継がれる。そのため、米女優のアンジェリーナ・ジョリーのように、身内に乳がんや卵巣がんの患者がいる場合は、発症前に乳房や卵巣を切除するケースが欧米で増えている。
日本でもコストをかければゲノム解析は可能だという。ただ、日本の医学界には「予測に基づいた治療」という発想がなく、関連する法整備が行われていない。それどころか、「がんになりやすい遺伝子をかなりの確率で抱えている」と分かっても、「その予測だけで切除などの治療に踏み切ってよいのか」といった議論すら十分になされているとはいえない状態だ。
「とはいえ、『ゲノム解析によって得たデータをどう生かしていくか』を社会全体で考えなくてはならない時期にきています。というのも、ゲノムは究極の個人情報であり、親兄弟はもちろん、時には民族に共通するものだってあるかもしれない。解析によって得たデータで治療が進むのは結構な話ですが、米国ではかつて生命保険への加入や就職が拒否されるなど、“遺伝子差別”の事例が報告されています。大いなる議論が必要です」(永田教授)
日本人は情報を軽く考える傾向にあるが、これからの医療は高度な情報管理が不可欠。そのことを忘れてはならない。
どうなる! 日本の医療