「愛は生死を超えるとはこのことだ。私の体は死んでもこの娘の中で生きるのだ。そう思ったら、ひとつの山を越えられたような、そんな気になりました。何か生きる希望が少し見えたようにも思いました。でも先生、おかしいよね! そんなバカなこと考えてとお思いでしょう?」
こう話された直後、Fさんの目から涙があふれてきました。娘さんを思う気持ちがFさんの生きるもとになっている。そして、Fさんは「いま死ぬことがすべての終わりではない」と自分自身にそう言い聞かせているように思えました。死の後も続くものがある。それでこそ、希望を持って生きていられる。そうなのだと思いました。
「おかしくないよ。そう、娘さんは手紙を読んで『お母さんが一緒に生きていてくれている』と、きっと心強く思うよ」
私はそう答えました。 Fさんの一言一言に納得しながら、心理学者・ユングの「人間にとって決定的な問いとは、自分が限りないものにつながっているかどうかということである」という言葉と、仏教学者・鈴木大拙の「限りないものがある。それで人は生きていられる」という言葉を思い出しました。
がんと向き合い生きていく