訪問診療をする小堀さんにはユニホームがある。神父の祭服にならった立ち襟のシャツだ。
「訪問診療医は家族の闇に踏み込むようなところがあります。連絡しても親の死に目に会いにこないとか、救いようのない世界が広がっている。カトリック信者の私はすぐに気付きました。これは医師というよりも神父の領域だと。それで格好をまねたのです」
長年外科医として勤務してきた小堀さんにとって、初めて体験する在宅医療は、それほど衝撃的なものだった。
「地域医療・在宅医療に関わるようになって15年目の今でも毎日、新鮮な驚きがあります。例えば訪問するきっかけは、地域の住民から寄せられるゴミ屋敷の苦情だったりします。そこに行政が介入し、医師の診察が必要な高齢者が発見される。それで行政から依頼を受けた我々がゴミまみれの現場を訪れ、診療を始めるのです。そこは想像を絶する世界。まずはノミやシラミを持ち帰らないように気を付けなければならないのです」
死なせる医療 訪問診療医が立ち会った人生の最期