がんと向き合い生きていく

新型コロナ禍であらためて考えるべき「在宅介護」の現状

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 この6月、日本緩和医療学会から「新型コロナウイルス感染症が拡大しているこの時期にいのちに関わるような病気で入院中の患者さんのご家族にお伝えしたいこと」と題するリーフレットが送られてきました。内容をピックアップしてみます。

  現在、世界中において新型コロナウイルス感染が拡大しており、病院を利用される患者さんやご家族には不自由をおかけしております。特に、入院病棟ではご家族の面会制限が行われており、入院している方にお会いになれないことで大変つらい思いをされていると思います。このリーフレットでは、現在の病院の状況をふまえ、病気と闘っておられる患者さんとそれを支えるご家族が「つながり」や「きずな」を感じつつ過ごしてもらうために、病院スタッフよりご家族にお伝えしたいことを説明したいと思います。

①まず、ご家族もできる限り感染を予防してください

②病室に持ち込めるようなら、ご家族の写真やメッセージカードを用意されてはいかがでしょうか?

③ノートのやりとりで想いを伝えてみてはどうでしょうか?

④スマートフォンやタブレットの使用については、病院スタッフと相談してください

⑤患者さんのことをたくさん教えてください

⑥可能ならご自宅での介護を検討されませんか?

 とても気になったのは6番目です。内容を詳しく見てみると、下記のように「ご自宅での介護を検討されるのも一つの方法」として退院を勧めているのです。

「入院病棟における面会制限は、残念ながらしばらくは続きそうです。したがって、人生の残り時間が短い時期にご家族と離ればなれになってしまうかもしれません。病棟スタッフや、がん相談支援センターの医療ソーシャルワーカー、地域包括支援センター等にご相談の上で、お住まいの地域の在宅医療の状況によっては、ご自宅での介護を検討されるのも一つの方法かもしれません」

 以前、この連載で紹介しましたが、コロナ感染症拡大時期の在宅の訪問系サービスはとても大変な状況です。4月10日には、「訪問系サービスにおける新型コロナウイルス対策の要望書」が内閣総理大臣安倍晋三様あてに提出されました。

 その中の一文を再掲します。

  訪問系サービスは、医療職が常時配置されている施設サービスと介護を行う環境・条件が決定的に異なります。しかし、事務連絡では、ホームヘルパーが単独で介護する訪問系サービスに特化した配慮がなされていません。また、入手困難な使い捨てマスク、消毒液や防護衣等の準備など、費用負担を強いるのでしょうか。私たちは強い違和感を抱いています。訪問系サービスは弱小事業所が多く、近年は閉鎖・倒産が相次ぐ状況にあります。それでも緊急事態の中で、地域で暮らす要介護高齢者を感染から守り、生活を保つために最前線で努力しています。訪問系サービスの事業所とホームヘルパーに、具体的できめ細かな対応策を求めます。

要望1 訪問系サービス事業所へのきめ細かい感染予防、感染対策の周知徹底を求めます。

要望2 訪問系サービス事業所と介護労働者が新型コロナウイルス蔓延時に、できるだけ安心して働き、休める環境整備を求めます。

要望3 ホームヘルパーの緊急増員を求めます。

 がんの終末期でホスピスなどの病院に入院されている方は、老衰で動けなくなって自宅におられる方とは違います。がんによる痛みや苦しみなどの症状を持っていて、コントロールが必要な方も多いのです。

 また、日本の家族人数は本人も含めて平均2・47人にすぎません。日本緩和医療学会はコロナ拡大の状況において、在宅介護の現状についても考えていただきたいのです。

 終末期においても、できる限り患者さん一人一人に合った対応をお願いしたいと思います。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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