上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

先人が取り組んだ感染症対策が外科手術を大きく進歩させた

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 産褥熱の原因を調査したゼンメルワイスは、医師が“感染性の粒子”を手に付けたまま患者を診ていることを突き止め、治療前に手を消毒するよう義務付けました。すると、産婦の死亡率が激減したのです。このことから、ゼンメルワイスは「医療者は次の治療に臨む前に手指衛生を徹底するべき」と訴えましたが、当時は病原菌の存在すら知られていなかったため、医学界では受け入れられませんでした。ゼンメルワイスは嘲笑の対象となり、神経衰弱に陥って不遇のまま47歳で亡くなります。

 ゼンメルワイスの功績が認められたのは、19世紀後半に感染症は病原菌によって起こることが発見されてからでした。いまでは「感染制御の父」と呼ばれています。

 同時期の19世紀後半には、ドイツの外科医シンメルブッシュが手術器具類の煮沸蒸気消毒法を確立しました。100度程度のお湯や蒸気で病原菌を死滅させる方法で現在はほとんど行われていませんが、「シンメルブッシュ式」という名前が残るくらい画期的なものでした。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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