たとえば、アルツハイマー型認知症の患者さんは、「アミロイドβ」や「タウタンパク質」といった特殊なタンパク質が脳に沈着しています。初期段階では、とくにアミロイドβが短期記憶をつかさどる海馬から順にたまっていき、脳を萎縮させます。認知症の方が最初に新しいことが覚えられなくなるのはそのためですが、同時に脳が萎縮することで「アセチルコリン」などの神経伝達物質が減少します。アセチルコリンは嗅覚と密接に関わっていて、嗅神経の障害が引き起こされるため、記憶力の低下とともに嗅覚障害も起こっているのです。
もちろん、嗅覚障害の原因は認知症だけでなく、アレルギー性鼻炎、近年は新型コロナウイルスなどさまざまです。認知症に伴う嗅覚障害かどうかを見分けるには、「長年にわたって徐々ににおいを感じなくなっているかどうか」をチェックします。アレルギーのように急に発生したり、悪化と回復を繰り返すものは該当しません。
名医が答える病気と体の悩み