第一人者が教える 認知症のすべて

若年性も老年性も「私は絶対にならない」とは言い切れない

若年性では広い範囲でダメージが…

 通常、アルツハイマー病は、記憶をつかさどる海馬(側頭葉の内側)と頭頂葉が病変の中心となります。しかし、若年性では、前頭葉、側頭葉も含めた広い範囲がダメージを受けるので、症状が多彩になりやすい。また、「巣症状」が、老年性より出やすいことも指摘されています。巣症状の代表的なものは次の通りになります。

【失語】音として聞こえているが、言葉や話として理解すること、自分が思っていることを言葉として表現することが困難。

【失行】日常的な動作や行動が困難になる。例えば、着替えができない、道に迷うなど。

【失認】自分の体の状態や物との位置関係、目の前にあるものが何かを認識するのが困難になる。

 若年性では、仕事や家事、子育てなどで社会との関わりが多く、周囲の人とのコミュニケーションを取りながら行動しています。そのため、うまくいかないことが増えるとイライラしたり落ち込んだりして、結果、不安、うつ、興奮、妄想などの行動心理症状も出やすくなる。

 若年性も老年性も使う薬は共通していますが、若年性アルツハイマーの患者さんには、不安やうつなどを改善するために、抗不安薬やSSRIなど精神疾患の治療に用いる薬を処方することもよくあります。

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新井平伊

新井平伊

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

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