内視鏡検査の結果は、血便の原因はがんではなく、放射線治療による直腸炎との診断でした。消化器内科で貧血を改善するための鉄剤などが処方され、次第に血便は落ち着き、Aさんも奥さんもホッとしました。
最近、Aさんの口癖になっているひとりごとは、島崎藤村の「千曲川旅情の歌」の一節です。
「この命なにを齷齪、明日をのみ思ひわずらふ」
検査も治療もしっかり行われ、前立腺がんは再発していない。担当医も大丈夫と言っているし、直腸がんではなかった。大丈夫だ。それなのに、自分は何が心配、何が不満なのだ。そう自分に言い聞かせ、納得したつもりでいても、昼は症状がないのに、夜に下腹部の不快を感じると心配になるAさんでした。
奥さんは、「やっぱり大丈夫だったでしょう?良かった。でもあなたの心配性は治らないね」と言っています。
がんと向き合い生きていく