上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

「ステロイド」を使っている患者の手術は細心の注意が必要

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 アレルギーは心臓手術にとって“障害”になると、以前にもお話ししました。花粉症、アトピー性皮膚炎、小児喘息の既往、食物アレルギー、金属アレルギーなど、何らかのアレルギーがある患者さんを手術する際は、通常の場合よりも細心の注意が必要になります。術中に極端な血圧低下を来すアナフィラキシーショックというアレルギー反応を起こすと、全身のショック状態から循環の維持に難渋し、手術の進行を妨げられることになるからです。

 アレルギーがある患者さんの手術を行う場合、手術で使う薬や機材を該当するアレルギーに抵触しないようなものに変更します。

 また、アレルギー反応を起こしにくくするために、免疫抑制剤の「ステロイド」を前もって必要な量だけ点滴で投与してから、あらためて手術に臨むケースもあります。

 今回はそのステロイドと手術について詳しくお話しします。ステロイドというのは副腎で作られる副腎皮質ホルモンのひとつです。多岐にわたる作用があり、薬としては「免疫抑制作用」と「抗炎症作用」を目的に使用されるケースがほとんどです。膠原病(全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、全身性強皮症など)をはじめとする自己免疫疾患、アトピー性皮膚炎や気管支喘息といった炎症性疾患などに対して大きな効果が期待でき、患者さんのQOL(生活の質)の向上や維持をもたらす優秀な薬です。その発見は約90年前で、発見に関わった3人の学者が1950年のノーベル医学・生理学賞を受賞したほど画期的なものでした。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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