もちろん、亡くなった患者さんの執刀医はとりわけ深い傷を負っています。そのとき、責任者である私は「こいつを再生して一人前にできなければ、自分にも先はない」と思い、その時点でできうる限りの感染症対策をさせ、除菌が完了した2週間後から手術にも参加させました。いま、その担当医は独り立ちして、最新の治療部門の第一人者として活躍中です。
こうした苦い経験が、われわれの感染症対策をより高めることにつながっています。手洗いなどの基本的な予防対策を改めて徹底し、感染症対策の専門家にアドバイスをもらいながら、当時は保険が適用されなかったMRSA用の抗生物質も、費用を病院が負担して採用しました。
そして、何よりも「創傷治癒」=「傷を治す」という外科医の原点に立ち返ったことが重要でした。正確に縫合する、傷口を隙間なくぴったりと縫い合わせるといった“仕上げの正確さ”を追求。術後に傷口周辺の皮膚の皮下層にドレーン(誘導管)を入れて吸引をかけ、傷が治るメカニズムを促進させる処置を行う工夫も重ねました。
天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」