天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

仕上げの正確さが危険な感染症を防止

 もちろん、亡くなった患者さんの執刀医はとりわけ深い傷を負っています。そのとき、責任者である私は「こいつを再生して一人前にできなければ、自分にも先はない」と思い、その時点でできうる限りの感染症対策をさせ、除菌が完了した2週間後から手術にも参加させました。いま、その担当医は独り立ちして、最新の治療部門の第一人者として活躍中です。

 こうした苦い経験が、われわれの感染症対策をより高めることにつながっています。手洗いなどの基本的な予防対策を改めて徹底し、感染症対策の専門家にアドバイスをもらいながら、当時は保険が適用されなかったMRSA用の抗生物質も、費用を病院が負担して採用しました。

 そして、何よりも「創傷治癒」=「傷を治す」という外科医の原点に立ち返ったことが重要でした。正確に縫合する、傷口を隙間なくぴったりと縫い合わせるといった“仕上げの正確さ”を追求。術後に傷口周辺の皮膚の皮下層にドレーン(誘導管)を入れて吸引をかけ、傷が治るメカニズムを促進させる処置を行う工夫も重ねました。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。