薬に頼らないこころの健康法Q&A

心のケア不要 被災者に必要なのはプライバシーと薬剤確保

井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授(C)日刊ゲンダイ

 気の毒な被災者がいる。悲嘆に暮れている。そこにボランティア医師がやってきて、お話をうかがう。話しているうちに感極まって泣き始める被災者。大きくうなずき、温かい言葉をかけながら、被災者を包み込むような医師。そうして、涙、涙だった被災者に、次第に安堵の表情が浮かび、晴れやかな笑顔が戻る。最後に、「話を聞いてもらえた。先生、ありがとうございました」、そう感謝の言葉を述べる……こんなシーンをテレビは流したいのだと思います。

 テレビ制作者の思惑は分かります。美しい「心のケア」の場面を番組に挿入して、震災報道の悲惨さを和らげたいのでしょう。

 しかし実際には、被災地にテレビが好むようなドラマチックな「心のケア」ニーズは多くありません。

 2011年3月11日、震災発生直後から「心のケア」の必要を強調する報道が大量にされました。全国の精神保健関係者は「心のケアチーム」を結成して現地に送り込み、被災地はボランティアたちであふれました。

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井原裕

井原裕

東北大学医学部卒。自治医科大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学大学院博士号取得。順天堂大学医学部准教授を経て、08年より現職。専門は精神療法学、精神病理学、司法精神医学など。「生活習慣病としてのうつ病」「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」「うつの8割に薬は無意味」など著書多数。