数字が語る医療の真実

米食と麦食の比較試験必要 「かっけ」研究と森鴎外の反論

 林太郎はその後、明治21年に帰国し、翌年かっけについて論じた論文を発表しています。そこでは、米麦半々の食事前後のかっけの減少は、たまたまかっけの減少期と重なっただけかもしれず、米麦半々食によりかっけが減ったとは言えない。“その食事による”というためには、一兵団を半々に分け、他の生活は同じにして、食事だけを変えて比較する必要があるというものでした。

 これもまた、まっとうな反論です。今流の言い方をすれば、「米食と麦食を比較したランダム化比較試験の結果を待たなければ、結論づけることはできない」というわけです。

 正しい理論に基づいた“結果的には間違った”反論により、かっけ撲滅に至る道のりはまだまだ混乱し続けるのです。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。